接客業全般において、お客さまに寄り添い、親切丁寧な応対を心がけなさい、とよく言われると思う。しかし、そもそも「寄り添う」というのは抽象的過ぎて、具体的にどういうことなのかわかりづらい。

この記事では、お客さまに寄り添うというのは、どういうことか、僕なりの考えをまとめている。

話を”きく”こと

お客さまに寄り添うためには、まず相手の話をきちんと”きく”ことが求められる。

そして”きく”という言葉には、聞く、訊く、聴く、と3種類のきくがある、と応対研修やビジネスマナーのセミナーなどで説明される。音としてボンヤリと耳に入るのが聞く、質問するなどして、お客さまの言葉を引き出すのが訊く、そして、お客さまが真に言いたいことを察するのが聴く、というように分けられる。

最後の”聴く”、というのはたとえ相手の意思が表明されていなかったとしても、「もしかしたら、こういうことが言いたいのかもしれない」と考えることから始まる。耳に十四の心、と書くように色々な心をもって耳を傾けなさい、という想いが現れた漢字だと思う。そのため、この”聴く”がお客さまに寄り添うために1番必要なスキルだと言われている。

しかし、色々と相手の思っていることを想像できたとしても、それを確かめる手段がなければただの妄想に終わってしまう。相手の真理を確かめるためには、質問をして確認しなければならない。つまり訊くスキルも必要である。

さらにいえば、お客さまが発言した言葉を一言一句聞き間違わずに認識しなければ、そもそも話が成り立たない。ということで聞くスキルも必要になってくる。

結局どの”きく”スキルも必要不可欠だということだ。実は先述したように、応対研修などでは、”聴く”が最も重要である、とされがちで、”聞く”にいたっては、細かな説明はされずに、むしろ「聞く、はダメ。聴く、訊くをしなさい」などと教えるセミナーもある。

聞く、訊く、聴くはどれが欠けてもいけない。すべてお客さまに寄り添うために必要なスキルだと、僕は考えている。

従業員はお客さまの代表者でもある

お客さまに寄り添うということは、従業員はお客さまの代表者でもある、という意識が必要だ。

どの会社でもマニュアルやルールが存在する。マニュアルやルールは大変便利である。お客さまのために何をすべきか、会社のためにどのような手順をとれば効率的か、すべて書いてある。自分の頭で考えなくても、先人たちの知恵を容易に借りることができるのだ。

ところが実際の仕事ではマニュアル通り、ルール通りにやっているのに上手くいかないことが多々あると思う。とくに接客時は、お客さまの要望がマニュアルになかったり、ルールとして叶えられなかったりすることが多いのではないだろうか。

そんな時、一従業員に過ぎない僕たちはこう考える。残念だけど、ルールだから仕方ない。できないものはできない、と。

こうした対応はお客さまに寄り添ったものと言えるのだろうか。もちろん、組織の一員としてルール違反を侵すことはできない。けれども、お客さまと1番近い距離にいる人が、そう簡単に諦めてしまうのもなんだか切ない気がする。

今、さらっと言ったが接客業における従業員はお客さまに1番近い存在である。ということは、組織の一員としての立場と同時に、お客さまの声を代弁して組織に訴えることができる立場にもある、と考えることができるのではないだろうか。

このような前提があると、お客さまからルール的に無理な要望を言われたとしても「なんとかできないだろうか」と考える余裕が生まれる。つまり、仕方ない、できないものできない、と安直に考えることが少なくなる。するとどうなるか。自ら代替案を提案したり、なんとか要望を叶えられないか上司にかけあったりすることができるようになるのだ。

「そうは言っても決裁権もないし、上司は聞く耳持たずだし」と思う人もいると思う。しかし、みなさん自身が一従業員としてではなく、お客さまの代表者なんだ、という気持ちでいれば、上の人を納得させるための材料をかき集めることだって出来るはずだ。結果として要望は叶えられなかったとしても、お客さまのために奔走した、ということが伝われば、満足を得る可能性は大変高まるだろう

僕たちはマニュアルやルールがあると、どうしてもそれに縛られてしまう。しかし、お客さまはひとりひとりが違う。マニュアルやルールにすべてのお客さまを納得させる方程式は載っていない。お客さまに寄り添うためには、マニュアルやルールの外に目を向けることも必要だと、僕は考える。

まとめ

僕たちは、お客さまに寄り添うこと、親身になること、が大事だということを知っていても、それが具体的にどういう行動を指すのかいまいちわかっていないように思える。

こうした抽象的な言葉を、抽象的なまま受け入れてしまうことは理解できていないのと同じだ。イメージだけでわかったつもりになるのではなく、ではどうすればよいか、ということを常に考え、具体的な行動に移すことが、お客さまに寄り添う第一歩なのではないだろうか。