長いこと社会人をやっているとそんなこと知っていて当然、と思うようなことを相手が知らなかったり、逆に自分が知らなかったりして恥をかくことがある。

勉強を教える先生の図

「一般常識」と一蹴してしまえばそれまでなのだが、いやしくも人に仕事を教える立場の人間としては放っておけないというか、相手にはそういうこともきちんと理解してもらった上で仕事を覚えてもらいたい、なんて思っている。

そんな知っていて当たり前、一般常識だろう、というようなものの代表として「以上」、「以下」、「未満」の違いがある。これらは「知っていて当たり前」と侮ってしまいがちであるが、実はちゃんと理解していない人も多くいる。

以上、以下とは

本記事において取り上げる言葉の意味は三省堂国語辞典第七版から引用しています。

以上……[それを入れて]それより<上/多いこと>

以下……[それを入れて]それより<下/少ないこと>

「以上」は、「それを入れて」ということなので、「20歳以上」とあれば20歳、21歳、22歳、23歳……と20歳を含めそれより上の年齢を指す。

「以下」も同じく「それを入れて」とあるから、「20歳以下」とあれば20歳、19歳、18歳、17歳……と20歳を含めそれより下の年齢を指す。

以上、以下の問題点

では、さっそく以上、以下を使って例文を作ってみよう。いわゆる「お酒は20歳になってから」を以上、以下で表すとどうなるのだろうか。

A)「19歳以下の人は、お酒を飲んではいけません。」

確かに意味としては伝わる。伝わるんだけど「19歳」という年齢と「お酒」という言葉がどうもしっくりこないような気がする。

おそらくこれは、私たちの頭の中にあるお酒を飲める(または飲めない)というイメージが「19歳」ではなく「20歳」を基準に考えられているからだろう。20歳で法律上成人と認められ、お酒を飲んでもよいことを考えれば、我々がこのイメージをもつことは当然といえよう。

そうだとすれば、なんとかして「20歳」という年齢を前面に押し出しつつ、19歳以下は飲酒禁止であることを表したいものだ。では、次のような表現はどうだろう。

B)「20歳以上の人は、お酒を飲んでいいです。」

Aと同じく言いたいことはわかる。わかるんだけど、なんだかぼんやりとした印象になってししまった。それに「飲んでいいです」って……。

しかも、そもそもの目的である「19歳以下の人は飲酒禁止」という意味が弱くなってしまったではないか!

それではAとBをつなげてみたらどうだろう。

C)「19歳以下の人はお酒を飲んではいけませんが、20歳以上の人はお酒を飲んでいいです。」

19歳と20歳という2つの年齢が出てきてしまい、まとまりのない文章になってしまった……。

ここまでくると、もはや誰もこの注意書きを読まなくなる。これだと、未成年者の飲酒が増加し、日本が犯罪大国になる恐れも考えられる。

このようにある数を基準として、以下も以上も表現したい場合どうすればいいか。そこで登場するのが「未満」だ。

未満とは

未満……ある決まった数に届かないこと。

「未満」は、「届かない」ということだから「20歳未満」とあれば19歳、18歳、17歳、16歳……と20歳を含めずそれより下の年齢を指す。

「20歳未満」と「19歳以下」は、表現方法は違うが意味は同じである。とすればさきほどの「お酒は20歳になってから」も上手く表すことができそうだ。

D)「20歳未満の人はお酒を飲んではいけません。」

いかがだろうか。20歳という年齢を出しつつ、19歳以下は飲酒禁止、ということを同時に表現することができたではないか。

以上、以下、未満の使い分け

最後にこれらの使い分けについて補足する。

以上、以下は基準となる数を含むため、以上か以下かどちらかを表現するだけで言いたいことが足りる場合に適しているといえる。

例えば、募金活動をする場合、「募金は100円以上でお願いします。」と表せば言いたいことは伝わる。これを「募金は99円以下でしないでください。」とするとしまりが悪くなり相応しくない。これは「以上」の表現をもって足りる、といえる。

一方、「未満」はその数を含まないが、その数を表しながら、反対の意味を表現する場合に適しているといえる。さきほどの「20歳未満の人は、お酒を飲んではいけません。」がまさしくそうである。

まとめ

以上、(←この「以上」は「これより前。いままで。」の意)以上、以下、未満について整理してみた。