上席対応をしたにも関わらず、さらなる対応を求められてしまう管理者は、多くいる。今回は、そうした管理者の方に共通する特徴をいくつか挙げて、どうすべきであるかをお話したい。

あらかじめ対策を用意している

上席対応をするきっかけとしては、オペレーターからのエスカレーションがほとんどかと思いう。そして上席対応をする管理者(以下、単に管理者という)は、オペレーターから、お客さまの要求が何か、どのような不満があったのか、どうして代われと言われたのか、など詳細を聞き出すことと思う。また、聞き出さなくともどれくらい怒っているのか、声は荒げているのか、執着するようなタイプなのか、というような情報を”いかにも困っている!” という顔のオペレーターから受けることになる。

そうすると管理者は、「このお客さまはおそらくこういうことを言いたいのだろう」と予想し、場合によってはお断りをするための理屈を考え始める。「何度も同じことを聞くな!」とか「俺を納得させる理由を言え!」などと言われた時のために備えているのだろう。そして、電話を代わる、または折り返しをする。

実は当たり前のようにやっているこの行動が、お客さまの怒りに火をつけることがよくある。もう少し正確に言うと、”上記を前提”として電話を代わった場合、そうなることが多い。なぜなら、あらかじめお客さまに伝えるべき回答や対策を用意して臨むことになるからである。

クレーム対応において、回答や対策を用意して臨むことは当たり前にやるべきことと思える。また、迅速にお客さまの要求に答えることは接客業において目指すべきところだ。しかし、それはオペレーターが伝えてきた情報が、完全に正確であった場合だけである。つまり一言一句間違わず、お客さまの心情や意図を正確に伝えてくれているのならば、それを受けて用意した回答を伝えるべきだろう。

しかし、現実にそのようなことはありえない。我々が普段の仕事でやりがちなのが、ついオペレーターのしたエスカレーションや報告を真実だと誤認してしまうことである

https://atama.co.jp/entry/claim-teigi/

上記の記事で相当因果関係があるかどうかをお客さま自身が判断できない。だから、感情的になったお客さまの要求そのものを見るのではなく、不満を理解することに尽くすべき、ということを述べた。このように一対一で対応したとしても真にお客さまを理解することは難しいのに、間に他人が入っていたら、なおのこと困難を極めるのは必至である。

それなのに、オペレーターの言葉を信じ、用意した対策で臨んだらどうなるだろうか。お客さまにとって、その対策は勝手な決めつけに他ならず、また、これだ! という対策を用意したときほど人は饒舌となるため、説得させてやろう、という魂胆が見え見えになる。そうすると、お客さまの期待と現実のギャップはさらに広がり、「こいつはわかっていない」となってしまうのだ。

したがって、電話交代前に情報を取得する時は、何が事実であるか、しっかりと確認し、思い込みによって早々に回答を出すことのないよう心がける。これは、オペレーターを通して伝わってきた話だけでなく、リアルタイムモニタリングや、音声記録を聞いていた場合でも同様である。何度もいうように、お客さま自身、その要求や感情が相応しいものかわかっていないわけだから、そのような客観的事実だけをみて「こうしよう」と決めつけてはいけないのである。

説得させることが目的だと思っている

「上に代われ」と言われて、電話に出た管理者のすべきことは何だろうか。お客さまはできないこと、ルール外のことを求めて上席対応を希望しているわけだから、「心苦しい限りですが」などとクッション言葉を添えて、できないことを伝える、つまり説得することが管理者のすべきことのようにも思える。

では、「できない」とオペレーターに言われているにも関わらず、どうしてお客さまは「上に代われ」というのだろうか。ちょっと考えれば、人が代わったところで簡単に組織のルールが変わるはずないことは容易にわかるはずだ。それなのにお客さまが上席対応を求めるのには理由がある。少しわかりにくい表現かもしれないが、お客さまは、管理者に代わることで、暗闇に光が差すことを期待しているのだ。

電話を代わる前のお客さまは、オペレーターに不満をぶつけ、その不満を解消するためにああしろ、こうしろと無理難題と思われることを言ったはずである。もちろん、それが過度な要求であったとしても、早々に不当だ、などと決めつけてはいけない。

しかし、オペレーターはそのように振る舞うことはできないから、なんとかして断らなくては、と必死に頑張ったことだろう。場合によっては、その前にしたエスカレーションで「できないものはできないから、ちゃんと断って!」と管理者から冷たく指示を受けているかもしれない。

要求→謝絶→要求→謝絶、これを繰り返していると次第にお客さまも本当に無理なのだな、ということに薄々気づいてくる。これは、お客さまにとっては絶望、まさに暗闇である。しかし、一度吐いた唾を簡単に飲みこむことはできない。無理なことはわかっていても、なんとかしてほしい。せめてこの不満の気持ちだけでもわかってほしい。そこで一縷(いちる)の望みとして、上席対応という選択をすることになる。

改めて、同じ質問したい。「上に代われ」と言われて、電話に出た管理者のすべきことは何であろうか。

もしお客さまが上述のように考えているのであれば、それは光となることではないだろうか。安易に要求に応えろ、という意味ではない。お客さまが求めているものとは違うかもしれないけれど、決してお客さまを再び暗闇に置くようなことをしてはいけない、という意味である。

ルールとしてどうしてもできない、代替案も提案できない、ということであってもお客さまの不満に耳を傾け、その気持ちに寄り添うことはできるはずだ。不思議なことに、要求についての回答や説得ではなく、まずは不満を理解するための話をすると、お客さまも要求のことではなく、その要求に至った背景のようなものを話し出すことがある。ちょっとイメージしづらいかもしれないので、実際に過去僕がやっていたやり取りを書きだしてみた。

僕「お電話代わりました、上席の〇〇です。△△から一通りお話しを伺いました」
客「聞いたならわかると思うんだけどさ、△△さんの話、全然納得できないんだよね」
僕「さようでございますか。確か、□□ということについてご不満があったため、××をしてほしい、ということでしたよね」(a)
客「そうだよ。なのに××はできない、の一点張りでさ。なんでできないのよ」
僕「はい、△△の申し上げたように、××というご要望は難しくございます。ただ、他にお客さまのためにご提案できることがないかを確認させていただきたいので、今一度わたくしに□□について詳しくお聞かせいただけますでしょうか」(b)
客「さっき△△さんに話した通りのことだよ?」
僕「はい。△△からは伝え聞いておりますが、できればお客さまから直接伺って、状況などを把握したいと考えております。お話し伺ってもよろしいでしょうか」(c)
客「あっそう。だったら話すけど、□□は……。」

毎回同じ言い方というわけではないが、だいたいがこのパターンで対応していた。まず、上席対応直後はお客さまが何を不満に思い、どういう要求をしていたのかオペレーターから聞いた話を伝える(a)。これは、事実確認をする、というより一通りの話は聞いていますよ、というポーズである。

次に、要求について現時点での回答をする。しかし、ここではできない理由について詳しく述べるようなことはせず、すぐに不満の原因となった話を引き出すことにシフトする(b)。また、話を渋るような場合は、理由をつけるとか、自分の気持ちとして聞きたいということを誠意をもって相手に伝えるようにする(c)。

このようにすれば、要求を叶えてもらえない、という暗闇からは一時的にだが解放され、お客さまは自らの気持ちを伝えやすくなる。そうした中で受容、共感、同調といったサービスマインドの基礎を駆使して、お客さまとの信頼関係を築いていくのである。

少し話はそれるが、人間の欲求を段階的なものと定義づけたマズローの欲求5段階説をご存知だろうか。これは、人間は食欲や睡眠欲といった生理的欲求が満たされると、今度は健康維持や雇用の安定といった安全への欲求が生まれ、さらにそれが満たされると家族や職場といった集団に属したいという社会的欲求が生まれる、というものである。

つまり、人間の欲求を5段階に分けて、底辺の欲求が満たされると、その上を、それが満たされるとさらにその上を求めるようになる、といった心理のことだ。社会的欲求は3段階目なのだが、この上の4段階目に承認欲求(または尊厳欲求)というものがある。これは、自分という存在を他者から認めてもらいたい、とか評価されたい、という欲求のことである。

通常、会社勤めをしている日本人であれば3段階目までは満たされているはずだから、おのずと4段階目の欲求が我々の求めるところになる。

これはクレームをするお客さまであっても同じである。さきほど、不満に耳を傾けると、不思議と背景を話してくれる、と述べたが、まさにこれは欲求5段階説によって、裏付けられているといえるのではないだろうか。

お客さまは不満というギャップを埋めるための要求をしてはいるが、その根底には不満に至った経緯や、それによってどういう気持ちとなったのかを他者に認めてもらいたい、という欲求が隠れているのである。

できない理由を考えすぎている

最後の内容は、これまでとは少し毛色が違うものとなる。さらなる上席対応を許さず、断固として断るための方法である。そのため、これまで紹介した方法でもどうにもならない場合の最終手段と考えていただきたい。

よく、お客さまから「納得できない」とか「できない理由を説明しろ」と言われることがあると思う。そう言われて、では納得させるためにどうすべきか、とかできないことの合理的な理由は何だろうか、とか考えているようだったら、それはやめてもらいたい。なぜなら、お客さまの目的は納得することでも理由を知ることでもなく、要求を通すことにあるからだ。したがって、どのようなことを言っても、結局要求が通らないので「じゃあ、そうなった理由はなぜだ」とイタチごっこのようになるだけなのである。

また、お客さま(広くは消費者)にとって、著しい不利益を課すようなことでない限り、合理的な理由を説明する義務はない。「他のお客さまとの不公平が生じますため、そのようになっております」とか、「当社では、そのような対応はできかねます」で十分である。どのように伝えたところで、納得もしないわけだし、またそうしなければならない義務もないのだから、そこに労力を費やしても仕方ない。

客「不具合があったせいで、作業が遅れたんだよ。少し値引きしろ」
僕「不具合については、大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
客「そう、迷惑かかったんだよ、な? だからその分値引きしてくれよ」
僕「申し訳ございませんが、お値引きについてはできかねます」
客「は? なんでだよ、こっちは迷惑したんだぞ。理由を説明しろよ、理由を」
僕「当社の対応方針として、不具合を理由にお値引きするということはしておりません」
客「だから、その理由について説明しろよ」
僕「当社の対応方針となりますので、これ以上申し上げることはございません」
客「いやいや、客が理由聞いてんだぞ? 答えるのが筋だろ」
僕「ご期待に沿えず残念ではございますが、会社としての方針でございますので、何卒ご理解ください」

このように、終始一貫して値引きができないことを「会社の方針」として伝える。仮に、そういう方針に至った理由があったとしても、それをお客さまに説明したところで、会社の方針が変わることはないのだ。そのため、説明はしない、求められても、これ以上言うことはない、と伝えればそれでおしまいなのである。

しばしばこのようなクレームの場合、理由付けに努力する人を見かけるが、どうしても調べるのに時間がかかったり、別の人に聞いたりすることで、お客さまは「こいつよりも話が出来るやつがいそうだ」と考えてしまう。そうすると、さらなる上席対応へ繋がるのである。

ただし、伝え方には細心の注意を払う必要がある。例えば、早口でまくし立てるように言うとか、横柄な態度をとるとかは絶対にしてはいけない。少しでも別のところでボロがでると、今度はそこを突いて「なんだその態度は。上司に代われ!」となってしまう。あくまでも丁寧に、謝辞も交えながら冷静に事実を伝えるようにする。

まとめ

今回は具体的な上席対応の仕方として、思い込みを排除して、真にお客さまの言いたいことが何であるかを知ることの必要性を説明した。

我々は知らず知らずの間、伝聞などによって、実際に見たわけでもないのに、「そういうものなんだ」とバイアス(偏り)がかかってしまうことがよくある。

上席対応ではとくにこの点を意識して、ゼロからお客さまと向き合うことを意識する必要がある。

また、お客さまに対しては説得させよう、とかそういう気持ちで臨むのではなく、自らがお客さまの暗闇を照らす光となるべき、という考えも話した。お客さまは不満をかかえており、それを原因として要求が生じている。要求に対する回答を早く出したいという気持ちをおさえ、不満に至った経緯を聞き出し、その気持ちに寄り添うことが大切だ。

最後の方法は少々強引なようにも思えるが、その手段を選ぶかどうかは別として、「理由を考える必要はない」ということを伝えた。今の世の中、サービスをすること、受けることは当たり前であって、どの企業でもお客さまを主体に行動する。

それは決して悪いことではないが、だからといって、何もかも洗いざらいお客さまに説明しなければならないという義務はどこにもない。これを知っておくだけでも、今まで理由付けに苦労していた人としては、気持ちが楽になったのではないだろうか。